喫煙により発症リスクが7.6倍という腹部大動脈瘤の発症メカニズムが明らかになった。Nature Med.よりKoyama君が紹介。ニコチンが動脈平滑筋細胞でROSを産生し、ROSがAMPKα2を活性化し、転写因子AP-2αを介してメタロプロテアーゼMMP2の転写を活性化し、産生されたMMP2が動脈血管壁の弾性組織中のエラスチンを分解し、大動脈瘤の形成を促すという話。今回、APOEノックアウトマウス(動脈硬化マウス)にニコチン(1.5mg/kg/day, 6 week) を吸入させると腹部大動脈瘤ができることを明らかにしたことも大きな成果。昔、腹部大動脈瘤が破裂して亡くなった方がいた。吐血して、一気に亡くなった。ニコチンの投与量は、1日タバコ3箱分。また、禁煙のためにニコチン補充療法を行うが、動脈硬化症の人は、注意して行わなければならないか、禁忌になるのだろうか。今回のニコチンモデルでの大動脈瘤発生率は20%というデータであったが、アンジオテンシンAngII吸入モデルでは100%起こっている。アンジオテンシンをターゲットにした医薬品の有用性も再度示した論文でもある。AMPKの活性化薬としてメトホルミンを用いて、ニコチンと同様な経路を介して、MMP2の転写を活性化するというデータも示している。抗糖尿病薬であるメトホルミンを動脈硬化が起こっている患者に使うことはまずいのか、それとも動脈硬化の進展が抑制されるから問題ないのか。
2012年5 月30日 (水)
2012年5 月29日 (火)
ストレス時の火消しタンパク質
2012年 4月号のCellからTaniguchi君が紹介。この研究において、ストレス時の核-細胞質間輸送を試験管内で再現し、分子シャペロンHsp70を核に運ぶ新しい運搬体分子を見いだしている。ストレス状態を火事に見立て、発見した運搬体分子がストレス状態を鎮めることから「Hikeshi」と名付けている。このHikeshiをノックダウンした細胞は熱ストレスによる核小体の崩壊に対して、核小体の再構成ができなくなっているという。このことから、ストレス時にHsp70が核内で機能することがストレス状態からの回復に重要と分かりました。これまで別々に研究されていた核-細胞質間輸送と分子シャペロンのシステムが関連づけられたことも初めてであるという。きれいな研究である。理研のニュースリリースに分かりやすく解説されている。
投稿情報: 08:01 | 個別ページ
2012年5 月24日 (木)
Mol. CellとJBC
Mol. Cellに掲載された論文がインターネットで見れるようになりました。PubMedに「Kai h.」と入れればヒットします。
また、アトランタで頑張っているマツケンの論文もJBCに受理されました。PubMedで一緒に見れます。おめでとう。そして、昨日、Seikoちゃんがアトランタラボに合流したとのことです。ジョージア州立大学を乗っ取る勢いで頑張ってほしいですね。
この間の壮行会バーベーキュー兼 披露宴への、Seikoちゃんからの御礼の手紙の一部を掲載します。皆で、アトランタで頑張っている仲間を応援しましょう。
「昨日、無事にアトランタへ到着いたしました。 いよいよです。 仕事は6月1日からですので、あと一週間で心と体の準備をします。 3年前に新入社員として入社した頃を思い出します。 大きな期待に不安が入り交じったなんとも複雑な心境は、このときにしか味わえないものですね。 人生一度切りなら、今やりたいことをやり抜いて生きていこう、と ◯◯ 歳にして思いました。 いくつになってもわがままな卒業生ですよね(笑) こんな私の背中を押してくれた家族、同僚、友人、先生方々には本当に感謝いたします。 また、先日はバーベキューに招待していただき、本当にありがとうございました。 ケーキカットの演出は披露宴ができていなかったこともあり、大変嬉しく心温まる思い出になりました。 何よりも研究室のメンバーに出会えたことが本当に楽しかったです。 顔触れは変わっても、甲斐研の雰囲気はいつまでも変わりませんね。 後輩たちを見ていると、懐かしさとともに心から応援したい気持ちになりました。 本当に貴重な時間をプレゼントしていただきました。研究室の皆様にもよろしくお伝えください。 末筆になりましたが、改めて心より御礼申し上げますとともに、甲斐先生と研究室の皆様の今後益々のご発展をお祈り申し上げます。」
Seikoちゃん、旦那を引っ張って行って下さい。
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放射線治療時のガン抑制機序のメカのひとつ
Cell 2月号。Ruikoちゃんのデビュー戦。ガン促進的に働く分子は時に抑制的に働く場合がある。今回はその謎を解き明かしたという論文。今回、取り上げた分子はATF2。ATF2は核内に存在する時はガン促進に、細胞質に存在する時はガン抑制に働くという。細胞質に出たATF2はミトコンドリアの外膜に存在するVDAC-HK!(アポトーシス抑制によりガン促進)の分子間相互作用を抑制することでガン抑制に働く。一度、細胞質に出たATF2はPKCεによるリン酸化により核内へ移行し、ガン促進に向かわせるという。放射線治療等のgenotoxic stressはPKCεを抑制し、ATF2の核外移行を促進するという。p53に変異があってもこの経路でガン抑制に働いているのだろうか.このメカは、放射線治療時にとの程度、関与しているのだろうか。面白い。先輩達のサポートはあったにしろデビュー戦とは思えない分かりやすいゼミでした。伝統は継承されています。
投稿情報: 07:47 | 個別ページ
2012年5 月23日 (水)
チアゾリジン誘導体の抗糖尿病効果に影響する分子
Cell 2月号からの論文をMoriuchyが紹介。朝ゼミのデビュー戦。FGF21という分子はインスリン抵抗性を改善することやPPARγアゴニストの作用を増強することは知られていた。しかし、そのメカニズムはあまり分かっていなかった。本論文により、チアゾリジンを投与すると白色脂肪細胞のPPARγを介して、ターゲット遺伝子の転写を活性化し、その中のひとつにFGF21があり、FGF21がオートクリン的に作用し、PPARγのSUMOが抑制され、PPARγの分解が抑制され、チアゾリジンの効果を増強するという。
FGF21は、これまでの研究で、絶食により肝臓からFGF21が産生され、肝細胞に血液を介して糖新生を促進することはわかっていた(PPARαの関与)。今回は、食後に、白色脂肪細胞からFGF21が産生され、PPARγ存在下でオートクリン的に白色脂肪細胞の増加することがわかった。FGF21の作用がなくなった状態では、PPARγアゴニストは主作用も副作用もなくなるという。2型糖尿病患者のFGF21の血中濃度は高いという。
昨年の5月のNature Med.に脳におけるPPARγをノックアウトするとチアゾリジンの肝臓におけるインスリン抵抗性改善効果が見られなくなるという報告があった。このノックアウトマウスは高脂肪食を与えても体重は増加しないという。2010年7月のDiabetesに、脳内のFGF21が肝臓におけるインスリン抵抗性を改善するという報告があった。今回の報告と関連付けると脳においてもFGF21がニューロンのPPARγの分解を抑制しているかもしれない。さらには、チアゾリジン誘導体の中でも、BBBを通りやすいものとそうでないもので有効性に差異が出ているかもしれない。
投稿情報: 08:20 | 個別ページ
2012年5 月22日 (火)
ウイルス感染の新たな増悪機序
Mol. Cellの4月号から。チョーサ君の紹介。ウイルスは宿主のE3 ligaseをターゲットにするE3 ligase分子を持っており、自身の感染増強の環境を整えるらしい。ウイルス感染時のDNA damageの修復機構の因子を抑制するという表現型が認められるという。そのウイルス由来のE3 ligase分子は、ICP0という。ICP0はCK1によってリン酸化されると、宿主の分子のうち、RNF8 FHAドメインを有する分子に疑似分子として相互作用し、機能を抑制するというメカニズムが存在するらしい。その結果、同様なドメインを有する分子を網羅的に影響を受けるらしい。
投稿情報: 08:09 | 個別ページ
2012年5 月21日 (月)
ソフト決勝とヘビ
結局3−8で負けました。負傷者、体調不良者などで、ぎりぎりでの戦いでした。ピッチャーの大活躍でここまで来れました。感謝です。相手は野球部だらけで、守りが堅かったですね。悔しかったので、来年は。
試合終了後、福岡に行き、同窓会支部での講演とパーティ。土曜日は、同窓生の薬学案内、夜は、サッカー部新歓で、日曜日は、かなり疲労がたまっていました。でも、色々な良い出会いがありました。
今朝は、金環日食でしたが、熊本は曇りで見えませんでした。講義の前に、薬学部の施設でヘビが出たと連絡があり、行ったところ大きなヘビが威嚇していました。昔の感覚で素手で握って捕獲。懐かしい感覚でした。実は、私は、スネークバスターでした。 IMG_0666をダウンロード
投稿情報: 13:34 | 個別ページ
2012年5 月17日 (木)
翔太の結婚式
報告が遅くなりましたが、先週末は翔太、みゆきさんの結婚式でした。ほのぼのした大変素晴らしい雰囲気の結婚式でした。私も例のごとく、主賓の挨拶で、一発芸(フルート)をしました。まだまだ音が外れたりしますが、二人に私の熱いメッセージは伝わったのかなと思いますよ。長い長い付き合いの後での結婚です。お互い知り尽くした上ですので、家庭円満でしょうね。おめでとうございました。良い笑顔のお二人ですね。
恒例の人間習字(熊薬では人間国宝という)。筆はいつものケンちゃん。墨入りバケツに頭を突っ込んで、髪の毛が筆になります。体重が軽くて、髪が長い人が担当です。過去に、結婚式会場によっては、拒否され、庭でやらされたこともありましたし、墨流しや着替えもトイレでさせられたりしたこともありました。
今回の文字は「道」でした。翔太が今後も幸せな素晴らしい道を歩んでいくことを願って。披露宴参加者の年配の方で、本当に人間国宝のグループが来ていると勘違いされている時も過去にはありました。
投稿情報: 16:00 | 個別ページ
小胞体からの亜鉛イオンとガン細胞
最近、細胞内の情報伝達物質として亜鉛イオンが注目されている。小胞体に存在する亜鉛トランスポーターZIP7がカゼインキナーゼCK2によりリン酸化されると活性化され、小胞体内の亜鉛イオンが細胞質内へ遊離する。その亜鉛イオンは脱リン酸化酵素を抑制することにより、ガンにおけるチロシンリン酸化酵素活性を上げ,ガンの異常増殖、遊走能亢進に繋がるという。ZIP7を抑制する薬があれば、抗ガン薬になるのではという話。この話は、Science Signalingの2月号に発表され、創薬生命薬科学4年のKameちゃんが紹介した。ガン細胞に亜鉛イオン20μMと亜鉛イオノフォアを処置すると細胞増殖を起こすという。亜鉛イオントランスポーターZIPはヒトでは14種類あるという。一方で、細胞質から細胞外へ、あるいは、細胞質から小胞体へ、亜鉛を輸送する亜鉛トランスポーターZnTも存在し、ファミリーを形成している。これらの亜鉛イオントランスポーターにより、細胞質内の亜鉛イオン濃度を調節しているという。亜鉛イオンは、3000以上のタンパク質の活性に必須であることも知られている。ガン細胞は亜鉛イオン濃度が高いとの報告もあるらしい。in vivoでZIP7を抑制した時にガンがどうなるのかが今後のポイント。CK2の阻害薬は現在、難治性ガンに対して開発中であり、メカニズムのひとつにZIP7が関わっているかも。また、抗ガン薬である5-FUは亜鉛イオンをキレートし、味覚細胞の増殖を抑制し、副作用としての味覚障害を惹起しているということも言われてるらしい。亜鉛イオン研究の今後も楽しみである。
投稿情報: 08:16 | 個別ページ