https://www.life-science-alliance.org/content/8/8/e202503330
本年6月17日付で論文が公開されました。概要は以下の通りです。きっかけは、株式会社UBE(旧宇部興産)からの共同研究の依頼でした。我々の研究室では、約20年前にスタートしたアルポート症候群の研究実績が蓄積されていき、世界に誇れるアルポート研究プラットフォームを構築していました。という背景もあり、さまざまな製薬企業から共同研究の話があっていました。当時、バルドキソロンメチルというNrf2活性化薬が注目されていた中、慢性腎臓病の薬の開発のために、UBE独自の構造を有するNrf2活性化薬を合成し、ついては、有効性を科学的な視点で一緒に共同研究したいという話でした。大学院生(加世田君)のテーマとして実施する背景もあり、論文公開できる、成果を学位論文として活用できるという条件にて、まずは、UBE-1099という薬剤が有効かどうかを検証するという共同研究を実施しました。その結果は、論文として整理され、下記のジャーナルに公開されました(https://journals.lww.com/kidney360/fulltext/2022/04000/Novel_Keap1_Nrf2_Protein_Protein_Interaction.15.aspx)。
バルドキソロンメチルとは異なり、Nrf2活性化をするという観点で選択性が極めて高く、循環器系への毒性も低いことが明確になりました。しかしながら、その効果(特に生存期間の延長)は、既存薬のARBなどと同程度あるいはちょっと不十分でありました。ただ、薬理学的プロファイルは、バルドキソロンメチルよりも良いということで、より強力で、経口吸収率が高い新たな薬剤が株式会社UBEによって見出されました。それが、今回の公表された論文のNrf2活性化薬です。データを見るとわかりますが、アルポートマウスのタンパク尿を抑えることなく(逆に若干増加するにも関わらず)、炎症マーカー、尿毒症物質、繊維化マーカー、などなど、単剤の投与で劇的に抑えました。しかしながら、生存期間の延長作用は、用量依存性は認められますが、既存薬ARBのロサルタンより劇的に強いかというとそうでもありませんでした。そこで、我々が申請したAMEDプロジェクトの一環で、既存薬のARBとの併用試験を提案し、実施したところ、論文上でも見たことがないくらいの生存期間の劇的な延長効果が認められました。これは、バルドキソロンメチルのドロップアウトによりNrf2活性化薬の世界の負の流れを廃し、Nrf2活性化薬を再興すべきであると確信しました。本論文は、加世田君、堀園君、アン先生を中心にした研究室のメンバーと、何より、素晴らしい貢献をしたUBEの医薬研究所の大沼さんを始めとして研究員のメンバーの力無くしては、この基礎研究の成果を世界に発信することはできませんでした。このNrf2活性化薬については、AMEDがさらに開発支援することが決定し、責任持って、患者のもとに届けます。
(Life Science Alliance論文概要)
Nuclear factor erythroid2(Nrf2)の活性化は、急性腎障害や非タンパク尿性の慢性腎臓病の実験モデルにおいて保護効果を示していた。しかし、糸球体傷害を伴うタンパク尿性の慢性腎臓病に対するNrf2活性化の有効性については、蛋白尿の一過性の増加が観察されるなど、議論の余地があった。我々は、Kelch-like ECH-associated protein 1(Keap1)とNrf2の相互作用を阻害する強力なNrf2活性化剤UD-051(開発コード:GP-051)を同定した。UD-051は、Nrf2依存的にアルポート症候群モデルマウスの進行性の腎病態変化を有意に改善したが、同時に、タンパク尿の増加を伴っていた(このタンパク尿の増加は、尿細管上皮における漏出アルブミンの取り込み抑制の結果であり、病態悪化に伴うタンパク尿とは異なる)。遺伝的Keap1ノックダウンやバルドキソロン誘導体(CDDO-Im)による軽度のNrf2活性化では、アルポート腎疾患は抑制されなかったことから、明確な治療効果には強力なNrf2活性化が必須であることが示された。RNAseqなどによる詳細な解析の結果、UD-051は、酸化ストレス、炎症、代謝異常を含む尿細管障害を抑制し、糸球体機能障害を標的とするレニン-アンジオテンシン系阻害薬であるロサルタンと併用することで、アルポート腎症の進行を大幅に抑制することが示された。本研究は、アルポート症候群におけるNrf2活性化の有効性に関して包括的に解明し、レニン・アンジオテンシン系阻害剤に、強力かつ選択的なNrf2活性化薬をアドオン(併用)するということが如何に治療的に重要かの情報を提供している。
このジャーナルには、以下に、論文審査員のコメントが掲載されています。バルドキソロンメチルの開発ドロップアウトの背景もあり、さまざまな腎臓系ジャーナルに投稿しても、Nrf2活性化薬の研究成果をひたすら「ダメ出し」する、編集者や論文審査員ばかりだった中、ようやく、この研究成果の価値をきちんと評価してもらえる素晴らしいジャーナルに出会え、感銘を受けました。
https://www.life-science-alliance.org/content/8/8/e202503330/tab-rc