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2014年10 月14日 (火)

祝 Nature Commun.

祝 Nature Commun.

東大の薬学部で活躍中のChihara先生。私がUCSF留学から帰国し、遺伝子クローニングの技術を研究室に導入した際に一緒に喜びを分かち合えたメンバーの一人であり、当時、熊薬の学部4年生でした。その後、修士課程の頃に、MEFの仕事を精力的に推進しました。その研究は、現在、アン先生に引き継がれています。そのChihara先生から論文掲載の報告がありました。本人にとって大変思い入れのある、長年かけた仕事であることから、論文受理時のその思いのコメントと共に、その詳細な内容を以下に掲載します。研究で人生を生き抜くことを後輩達に背中で示してくれています。おめでとう。そして、さらなる活躍を。

 

(論文受理時の連絡)

「先日、ポスドク時代から長年手がけた仕事がNature Communicationsに採択されました(最終責任著者)。ファーストは東大着任時に2番目に指導することになった佐久間さんです。去年のMeigo (Nat Neurosci)、今年の老化論文(PLOS Genetics)と同様、かなり時間が掛かりましたが、大事なオリジナル論文になったと思います。今回の仕事では、樹状突起の分岐、軸索の伸長に関わる分子を遺伝学的に単離し、Dogi (doubled glomeruli)と命名して解析を行いました(最終的にはStripという名前になりましたが、、、)全く解析されていない分子だったので、様々な材料(抗体、トランスジェニック、変異体などなど)を作る必要があり、かなり苦労しましたが、「これはきっと大事な分子になる!」と自分、学生に言い聞かせることで何とかここまで来ました。結果的にStripは、細胞内小胞輸送、細胞骨格制御、細胞増殖シグナル(Hippo)制御の全てに関わる大事なハブ分子として機能していることが分かってきました(今回の論文では、細胞内小胞輸送に関わる部分のみ発表しています)。正直、途中で不安になることもありましたが、最後まで走りきった気持ちです。きっと数多く引用される論文になってくれると思っています。」

 

(論文の要旨)

「タンパク質は膜に包まれた状態で、適切な場所に、適切な量、適切なタイミングで振り分けられます。これは細胞内輸送とよばれ、様々な生理現象の根幹となっています。2013年のノーベル医学生理学賞ではこの基本メカニズム解明の功績が賞されました。ノーベル賞対象研究以降、細胞内輸送に関わる分子群は多数同定されメカニズムの理解が進んできました。しかし、それら研究の多くは細胞を生体内から取り出した培養系で行われており、生理的な状態、特に実際の脳内の神経細胞における細胞内輸送に関する研究はあまり進んでいませんでした。私達は遺伝学手法の発達したショウジョウバエをモデル動物として用い、神経の突起、軸索が短くなる変異体ドジ(dogi)を単離しました。dogi変異体を詳細に調べると、Stripタンパク質の量が減少していることが明らかになりました。Stripタンパク質は、酵母、マウス、ヒトにも存在することから重要な役割を持っていると考えられていましたが、その機能は殆ど解析されていません。さらに遺伝学的、生化学的手法を駆使することで、Stripタンパク質が、細胞内輸送に関わるGluedとSprintと複合体を形成することを明らかにしました。GluedとSprintは、細胞内輸送の一つの様式であるエンドサイトーシス経路に関わるタンパク質です。神経の生存や伸長に必要な因子として、神経栄養因子とその受容体によるシグナルがあります。これら細胞表面にあるタンパク質の量や活性を局所的に調節する機構としてエンドサイトーシス経路は重要です。エンドサイトーシス経路は、細胞表面にあるタンパク質を膜(小胞)で包み込むことで細胞内に取り込み、さらに細胞内に取り込まれた小胞は、小胞同士で融合することによって成熟し 、取り込んだタンパク質を分解するか、膜表面へリサイクルするかという仕分け作業を行っています。GluedもSprintも取り込まれた小胞が成熟する過程に寄与しており、Gluedは小胞が微小管上を輸送される過程、Sprintは小胞同士が融合する過程をサポートしています。今回、GluedとSprintの両者と複合体を形成するStripタンパク質を見つけたことにより、小胞の輸送と融合は密接な関係にあることが示唆されました。実際に、「Glued、Sprintの2重ノックダウン」ではstripノックダウンと同様の軸索伸長異常が観察されました。また、Stripをノックダウンした神経では小胞の局在に異常があることも確認できました。すなわちStripは「小胞輸送に関わるGlued」と「小胞融合に関わるSprint」の複合体形成の足場となることで小胞成熟に関与し、軸索伸長を制御していることが明らかとなりました。以上の結果から、軸索が伸長する際のエンドサイトーシス経路の生理的意義が明らかになりました。本研究より、古典的なエンドサイトーシス経路に新たなメンバーStripを加えることができ、今後、細胞輸送に新たな洞察を与えることが期待されます。また、細胞内輸送は神経の形づくりのみならず、神経の恒常性維持にも重要であるため、恒常性の破綻した神経変性疾患の理解にも繋がると予想されます。」

 

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