2016年10 月26日 (水)
腸内細菌の作用メカとAHR腸内細菌の作用メカとAHR
Nature Med. 6月号に連報であった論文を二つ紹介。Teramonのプレゼン。腸内細菌が様々な炎症性疾患と密接に関係していることは多く報告されてきている。一つ目の論文は、炎症性腸疾患の原因遺伝子の一つであるCARD9のノックアウトマウスは大腸炎病態が悪化し、その欠損は腸内細菌叢が増悪するという。そのメカとしてはIL-22の産生低下によるという。さらに、CARD9の低下はAHR活性を低下させ、腸内細菌由来のトリプトファン代謝物Ficz(AHRリガンド)により大腸炎病態を改善するという。興味深いことに、炎症性腸疾患や潰瘍性大腸炎患者のAHR活性ならびにAHRリガンドの量は低下していたという。二つ目の論文は、中枢神経疾患である多発性硬化症と腸内細菌との関係である。アストロサイト活性や中枢における炎症に食事や腸内細菌が関わっているかどうか不明であった。食事中のトリプトファン代謝物がAHRの活性化を介して多発性硬化症の病態が改善したという。さらに、抗菌薬を投与すると乳酸菌が低下し、多発性硬化症の病態の回復は認められなくなるという。実際に多発性硬化症患者において、AHR標的遺伝子Cyp1b1の発現が低下しているとともに、患者血中のAHRリガンドの量もAHR活性も低下していたという。
最近、糞便移植あるいは腸内細菌をターゲットにした方法が潰瘍性大腸炎において効果が認められないという報告もある。今回の研究成果を基にした、腸内細菌ターゲティングのチューニングが、臨床試験における精度を上げ、どのような個人であれば有効であるかなどテーラーメイド医療へと展開するかもしれない。