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2014年11 月13日 (木)

臨床試験論文受理

臨床試験論文受理

ついに、特定パルス微弱電流と温熱併用療法の臨床試験の論文が公表されました。待ち待った論文です。以下に、プレス発表として流しました資料を添付します。今朝、熊日新聞(これまでの経緯を良く知る)が真っ先に取り上げてくれました。

 

日本発:肥満2型糖尿病に対する新規医療機器の臨床的有用性を証明

~薬を用いない、あるいは併用による新たな医療の提案へ~

熊本大学大学院生命科学研究部代謝内科学分野の近藤龍也助教、荒木栄一教授らは、同大薬学部遺伝子機能応用学分野の甲斐広文教授らと共に開発してきた日本発の医療機器(今後、薬事申請、上市予定)の有用性を、メタボリックシンドロームおよび肥満 2 型糖尿病患者を対象にした臨床試験にて証明しました。

 本医療機器は、医薬品開発と同様の基礎研究によって、最適化された物理的刺激(温熱とパルス微弱電流の同時処置)を活用したものであり、その作用メカニズム等が分子レベルで証明されてきた極めてユニークな医療機器です。現在、地元の中小企業(つちやゴム)ならびに国内の医療機器メーカーと密に連携を取りつつ、開発が進められています。本医療機器は、経済産業省 医工連携事業化推進事業(平成 24 年度〜平成 26 年度)のプロジェクトとしても委託を受けて います。

 本臨床研究により、糖尿病の予防あるいは治療にも有効であることを明らかにしただけでなく、現在、糖尿病治療薬を服用しているが、効果が不十分な患者に併用しても有用であったことが大きなポイントです。また、過体重や高齢のために運動療法が困難な状況の患者に対しても、適切な治療が可能となります。

 本研究は、2014 年 11 月 11 日に『EBioMedicine』オンライン版に、受理論文として公表されました。『EBioMedicine』は Cell Press & The Lancet が編集プロセスをサポートし、トランスレーショナル研究成果を掲載する新規ジャーナルです。

 さらに当該論文に対して、温熱療法の世界的権威である Phillip. L Hooper 先生から同誌上にコメンタリー(DOI: 10.1016/j.ebiom.2014.11.006 URL: http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352396414000309) を頂きました。 

 

<本研究のポイント>

  • この臨床研究は、メタボリックシンドローム該当者や 2 型糖尿病患者を対象に、最適化された微弱電流と温熱刺激の併用治療を施行したものである。

  • この新規物理的治療法は、対象者の内臓脂肪を減少させ、血糖値・耐糖能・インスリン抵抗性を改善、さらに慢性炎症状態を抑制した。

  • この治療法は、生活習慣病治療に対して新たな価値ある選択肢を提供するものである。

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<論文名>“Mild electrical stimulation with heat shock reduces visceral adiposity and improves metabolic abnormalities in subjects with metabolic syndrome or type 2 diabetes: Randomized crossover trials”
(微弱電流と温熱刺激の併用は、メタボリックシンドロームや 2 型糖尿病に対して内臓脂肪を減少させ、代謝異常を改善する:無作為化クロスオーバー介入試験)

<電子ジャーナル: EBioMedicine>
DOI: 10.1016/j.ebiom.2014.11.001
URL: http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352396414000255

<著者名> 近藤龍也、小野薫、北野さやか、松山利奈、後藤理英子、川崎修二、井形元維、河島淳司、 本島寛之、松村剛、荒木栄一(熊本大学大学院生命科学研究部(医学系)代謝内科学分野) Mary Ann 􏰃uico、甲斐広文(熊本大学生命科学研究部(薬学系)遺伝子機能応用学分野)

 

<研究の背景>
1962 年、Ritossa らによる温熱刺激が生体の遺伝子発現を制御する発見に端を発し、熱ショック応答経路(HSR: heat shock response)が生体防御や環境適応に重要な役割を果たしていることが示されてきた。1999 年には New England Journal of Medicine 誌に Hooper らが適切な 温熱療法が糖尿病患者の代謝異常改善に寄与することを報告し、その後、糖尿病患者では HSR によって特異的に誘導されるタンパク質である HSP(heat shock protein)72 が低下しており、種々 の方法で HSP72 の発現回復を行うと糖代謝異常が改善することが示されてきた。

 筆者らは、最適化された微弱パルス電流(MES)と温熱(HS)の併用が、HSP72を効果的に発現増強させ、糖尿病モデル動物の血糖値を低下、耐糖能およびインスリン抵抗性を改善し、内臓脂肪と肝脂肪沈着を減少させ、インスリン感受性を増強させることを報告した(PLoS ONE. 2008)。また MES+HS により、インスリン分泌低下型糖尿病モデルにおいて、インスリンを合成・分泌する細胞である膵β細胞の保護効果も示した(Diabetes. 2012)。さらに、本研究で用いた微弱パルス電流には、HSP 以外にも影響する作用があることも明らかにしてきた(J. Biol. Chem. 2013)。これらの基礎研究にて HSR 活性化など、MES+HS により引き起こされる生体防御機構が、糖尿病の重要な治療標的であることが明らかとなった。

 

<研究の内容>

 上記、基礎研究を踏まえて、健常人での安全性試験を経て、本研究では 40 例のメタボリックシンドローム該当者と 40 例の肥満 2 型糖尿病患者を対象に、臨床試験を行った。臨床試験では被験者を無作為に抽出し比較する、非盲検無作為クロスオーバー介入試験を施行した。42°Cの温熱刺激に加え、特殊パルス直流電流刺激(1.4 ± 0.1V/cm、持続時間 0.1 ミリ秒、55 パルス/秒)を、週に 4 回、1 回あたり 60 分で腹部にパッドを用いて施行した。機材に関しては、つちやゴム(株)より貸与いただいた。その結果、メタボリックシンドロームでも 2 型糖尿病でもほぼ同様に、内臓脂肪減少・耐糖能改善・インスリン抵抗性改善などの臨床的有効性を確認した。血液検査において糖尿病管理の指標として用いられる HbA1c に関しては、2013 年採択された【くまもと宣言】にて糖尿病における血糖コントロール指標として HbA1c 7.0%未満が提示されている。本研究における HbA1c 7.0%未満の達成率は MES+HS 治療により 52.5%に達した。体内の炎症反応を促す炎症性サイトカインの値も MES+HS 治療により低下が認められた。また末梢血単球を単離し、炎症シグナルを制御する NF-κB の核への移行を検討すると MES+HS 治療により、明らかに NF-κB の核移行が抑制されており、炎症性サイトカインの mRNA 発現低下も確認された。さらにインスリン抵抗性を改善する酵素、AMPK の活性化も観察されることから、HSP72 の発現増強と合わせて、MES+HS 治療は運動療法に極めて類似し た効果をもたらすと考えられ、幅広い糖尿病患者、とくに過体重や高齢化などで運動療法の施行が困難な状況においても適切な治療が行える新しい選択肢となりうることが示された。 

 

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