2013年9 月20日 (金)
ガンに関連した遺伝子変異とインスリン分泌ガンに関連した遺伝子変異とインスリン分泌
Cell Metabolism 6月号から。Takaki君の紹介。FGFR4のSNPsの一つが乳ガンの病態進行に関与している事は臨床的に認識されていたが、そのメカニズムはわかっていなかった。この論文では、FGFR4のSNPを導入したノックインマウスについて調べたところ、膵臓β細胞においてのみ、insulin 受容体の機能低下が認められ、その結果、insulinの分泌が過剰になっていたという。FGFR4のSNP変異がSTATの持続的なリン酸化(活性化)を受け、Grb14というアダプター分子の発現を誘導するという。さらに、Grb14は、insulin受容体の関連分子であるIRS-1と拮抗し、insulin受容体の作用を抑制するという。その結果、insulinの産生制御ができずに、過剰のインスリンが分泌されるという。すなわち、FGFR4のSNP(R388)は、インスリン分泌を持続的に高い状態を維持し、乳がん細胞の増殖を刺激する一方、糖尿病の悪化を抑制していることを示している。したがって、臨床的に報告されていた、FGFR4のSNP(R388)が、乳ガンの病態悪化に関与していること、一方、空腹時の低血糖症に関与していることの裏付けとなる分子メカニズムが明らかになったという話。insulin受容体が過剰発現している乳がん細胞を有するがん患者において、insulin投与による糖尿病悪化抑制という早期介入治療は、糖尿病はコントロールできてもガンを悪化させてしまうということも示唆する話。しかし、今回の基礎的な報告は臨床的に本当に意味があるのだろうか!?慎重に扱いたい研究成果であると思う。