2016年12 月24日 (土)
コメント「tauの分解物とアルツハイマーの関係」に対してコメント「tauの分解物とアルツハイマーの関係」に対して
早速、専門家のコメントを頂きました。このような論文の見方が本当に大切です。学生達にとって、大変勉強になります。クリスマスプレゼントでした。
「さて、K. Asheの Nature Med. paperですが、実は AlzforumというAD研究者御用達のサイトでも議論の対象になっていないのです。(それぐらいちょっと冷ややかです。さすがAshe まとめ方は上手いなと思うのですが・・・)Tauの真ん中からC末にかけてのドメイン(20kDaくらい)に凝集性があり毒性が高いというのは知られていたので、Tauのフラグメントが何か悪いことをしている可能性はすでに示されていました。 今回の論文では、N末端側のようですが、Fig1.dの結果で、C末抗体で20kDa Tau (Tau 55kDa ーTCP35 の差分)が検出できない矛盾はなんだろうなと思っています。
それより問題は、Asp314で Caspase-2によってTauが切られると言っていますが、35kDa付近の TCP35と言っているバンドは、Tau-Tgでしか検出できていません。しかもrTg4510はTauを超過剰発現したマウスとして有名です。もしかしたら、Tauを超過剰発現したことによって本来出会うことのないTauとCaspase-2が出会ってしまい、切断された可能性が高いのではないかと・・・
AD脳のデータも出していますが、ヒト脳は基本的にpostmortem brainですので、おそらく死後活性化したCalpainによって35kDa付近のフラグメントが得られた可能性があります。野生型マウスの脳でも脳摘出後、10分ほど放置しただけでCalpainによって切断されたTauの断片が検出されます。 Calpainによる切断は、Asp314とは異なるサイトでの切断だと考えられますが、得られるフラグメントは25−35kDaです。 Asheらは、ヒト脳で見られる35kDaフラグメントの断端配列を決めていないので、本当にヒト脳のTauがAsp314で切られているというエビデンスがこの論文にはありません。あくまで彼女らが作った抗体H1485抗体で検出できるか否かでの判断です。H1485抗体は、必ずしも TCP35の C末断端を認識する抗体ではないので、AD患者で見える 35kDa付近のものは、Calpainで切られているフラグメントである可能性が高いのです。ようは、Caspase-2依存的な切断かCalpainによる切断かは、H1485抗体では選別できません。こういう論文で毎回思うのは、AD脳を用いればそれっぽく見える結果が得られてしまう怖さがある点です。
この論文の主張である、Caspase-2の阻害が新たな治療標的・・・というのは、残念ながら固いエビデンスが欠落した論文になっているなと・・・ あくまで Tau-Tgでのみ得られる結果かと・・・ よくNature Medに通ったなという印象です。
現在、軸索蛋白であるTauが、病理期にいかにして軸索以外(somatodendriteに)に異所局在するかのメカニズム解明が重要視されています。
この論文のもう一つのポイントは、Tauフラグメントが作られたら、軸索以外への異所局在を誘導する可能性を臭わせている点です。Tauは過剰発現しただけで異所局在を示してしまうので、Asheらの解析だけでは説明できませんし、実際に、Immunocytochemistryなどの視覚的結果を示していません。内因性Tauレベルだと感度の問題で示せないのですが、Tau過剰発現は混乱を招くだけです。
それでも、Tauが切断を受けることで異所局在を誘導する可能性については、今後の追試が期待される部分でもあります。
私よりもTauを専門的にやっている研究者と話したときは、この論文はしばらく放置で良いのではないかとのことでした・・・」