2014年2 月17日 (月)
論文受理論文受理
論文がScientific Reportsに受理されました.倫理的にもひどいリバイス要求に対する首藤先生の頑張りと鈴木伸悟君のサポートと様々な努力が身を結んだ素晴らしい論文です。IFの上の方から色々とJournalを彷徨いましたが、Scientific Reportsに落ち着きました。新しいNature系列の雑誌であることから今後、評判の伸びが期待できます。
Inhibition of post-translational N-glycosylation by HRD1 that controls the fate of ABCG5/8 transporter. Shingo Suzuki, Tsuyoshi Shuto, Takashi Sato, Masayuki Kaneko, Tappei Takada, Mary Ann Suico, Douglas M. Cyr, Hiroshi Suzuki & Hirofumi Kai. Scientific Reports, 2014 in press
(鈴木君のドク論から一部抜粋・改変)
ABC (ATP-Binding Cassette) トランスポーターは,ATP結合の加水分解によって得られるエネルギーを駆動力として生体膜を透過する物質の輸送に関与する膜タンパク質である.ABCトランスポーターは,種々の細胞や組織の形質膜または小胞膜上に分布し,細胞内外の物質環境を整え,生体の恒常性維持に寄与する分子である一方で,遺伝子変異等によるその機能または発現の低下は,個体に多くの障害をもたらす.事実,脂質排泄型トランスポーターであるABCG5/ABCG8ヘテロ複合体の発現低下は,遺伝性シトステロール血症の誘発または動脈硬化の発症に関与する.一般に,これらの遺伝性疾患の治療のためには,当該組織・細胞における変異遺伝子そのものを補完あるいは改変する遺伝子治療や,原因タンパク質の翻訳後の発現・機能調節機構に着眼し,関連分子を探索し標的化する細胞生物学的アプローチが想定される.本研究ではABCG5/ABCG8が関わる疾患に対する治療戦略の分子基盤の確立を目指し,翻訳後の発現・機能調節機構の多くが未解明であるABCG5/G8タンパク質のN型糖鎖修飾機構の解明とそれに関わる因子の同定を行った.
ⅰ) ヒトABCG5およびABCG8とN型糖鎖修飾:
いくつかの研究においてマウスABCG5およびABCG8発現系を用いて,細胞内の発現制御に関わる検討がなされていたものの,ヒトABCG5およびABCG8における検討はなされていなかった.そこで本研究では初めにヒトABCG5およびABCG8の細胞発現系を確立し,N型糖鎖修飾部位を新規に同定した(ABCG5, N584/N591; ABCG8, N619).さらに,同定した部位のN型糖鎖修飾のタイミングを明らかとした.これにより,ABCG8のN619においては,OSTの触媒サブユニットであるSTT3Bを介して翻訳後N型糖鎖修飾を受けるタンパク質であることを,膜貫通タンパク質において初めて同定した.また,WT ABCG5はSTT3Aを介したN型糖鎖修飾を受けるものの,STT3Bを部分的に受けており,特にN584が強くSTT3B依存的な翻訳後N型糖鎖修飾を受けることが示唆された.
ⅱ)ヒトABCG5およびABCG8と小胞体関連分解(ERAD):
本研究ではさらに,ヒトABCG5およびABCG8におけるN型糖鎖修飾制御を介したタンパク質の品質管理に影響する因子の同定も行った.その結果,小胞体関連分解 (ERAD) において重要な役割を果たすE3ユビキチンリガーゼHRD1が,そのE3活性の有無に関わらず,ABCG8のSTT3B依存的な翻訳後糖鎖修飾を阻害することを明らかとした.さらに,ABCG8のN型糖鎖はそのタンパク質の安定性に大変重要な因子であり,HRD1による糖鎖修飾阻害は間接的にABCG8に安定性の低下をもたらした.加えて,HRD1はABCG5をE3活性依存的に分解促進し,他のE3であるRMA1がABCG5とABCG8の両方をE3活性依存的に分解促進した. 最終的に小胞体におけるN型糖鎖修飾機構を中心にABCG5およびABCG8タンパク質の品質管理機構を解明し,機能単体であるヘテロ二量体の発現へ影響しうる因子を提供した.
以上,本論文では,ABCG5/ABCG8のN型糖鎖修飾機構の分子基盤を明らかにし,HRD1およびRMA1によるABCG5/ABCG8の新規の品質管理機構を明らかにするものである.さらに,ABCG5/ABCG8の発現に影響する因子を同定したことは,シトステロール血症および脂質代謝異常症の治療戦略における基礎的知見を提供するものである.