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2013年6 月16日 (日)

第8回トランスポーター研究会年会シンポジウム5

第8回トランスポーター研究会年会シンポジウム5

シンポジウム:チャネル・トランスポーター研究の最前線3

 

 1)松尾先生(防衛医科大学):尿酸トランスポーターABCG2と痛風・高尿酸血症

 高尿酸血症に基づく痛風の発症に関わるメカに関する発表。松尾先生は、以前、ABCG2遺伝子が高容量性尿酸排泄トランスポーターが痛風を引き起こす主要な病因遺伝子を見いだしている。最近、ABCG2の尿酸排泄機能の低下による影響をヒトや動物モデルを用いて検討した結果、腎臓よりもむしろ腸管からの尿酸排泄機能が低下することが高尿酸血症の主因であることを明らかにし、新たに「腎外排泄低下型」高尿酸血症という概念を提唱している。また、痛風の発症年齢の若年化にABCG2の変異が関与していることも明らかにし、機能低下が20歳代以下で発症する若年性痛風の主要な原因であることを発表した(もうすぐ論文公表)。痛風・高尿酸血症のリスク評価のためのABCG2遺伝子の検査は、平成24年12月より全国の医療施設で検査オーダーが可能になっている。

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 2)北村先生(熊本大学):浮腫・高血圧の発症進展における上皮型Naチャネルとセリンプロテアーゼの相互作用

 魚の血圧は20 mmHgという。生命は進化の過程において、Naの欠乏という環境の大きな変化に対応するために、腎臓におけるNaの再吸収という機能を獲得して来た。飽食の時代に、過剰なNaを摂取するようになり、進化の過程で獲得した腎臓の機能が、高血圧などの病因になるように、皮肉な結果を引き起こすことになった。上皮型Naチャネル(ENaC)の長年の研究成果を北村先生が紹介。リドル症候群はENaCの活性の異常上昇が原因である。ProstasinというセリンプロテアーゼによりENaCが活性化されることは知られていた。protease nexin-1 (PN-1)がprostasinの内因性inhibitorであることを明らかにしている。ネフローゼ症候群のような高度のタンパク尿をきたす疾患において浮腫が出現する原因はいまだに解明されていないが、プラスミンのような血漿中のセリンプロテアーゼが大量に尿細管腔へ漏出することにより、ENaCの活性化を引き起こして体液貯留ならびに血圧上昇へと導く可能性が示されているという。本発表では、ENaCおよびセリンプロテアーゼのナトリウム代謝および血圧調節における重要性とともにネフローゼ症候群にともなう浮腫や食塩感受性高血圧に対する治療薬としてセリンプロテアーゼ inhibitorの可能性を示唆している。たとえば、メシル酸カモスタットをDahl食塩感受性ラットに投与すると血圧の低下や臓器障害の軽減をもたらすという。

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 3)粂先生(名古屋市立大学):ドーパミントランスポーターによるシナプス外情報伝達制御

  ショウジョウバエを用いて、概日周期と睡眠制御の分子機構を研究し、ドーパミンニューロンに存在するドーパミントランスポーターの欠損が睡眠の極端な短縮に関与していることを明らかにしてきている。さらに、昨年、これらの変異体を用いて、覚醒を制御するドーパミン神経回路を同定することに成功して、Nature Neuroscienceに発表している。この研究の面白いことは、睡眠中でも学習が成立できる可能性や、逆に覚醒しても、学習は成立しないことが起きうる可能性を示したことである。また、論文未発表であるが、ドーパミンのシナプス外情報伝達制御の存在を明らかにしたという。

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 4)深田先生(理化学研究所):亜鉛シグナル:亜鉛イオンのネットワークによる生体恒常性の制御の意義

 亜鉛は必須微量元素であり、生体の恒常性維持に重要な役割をしている。亜鉛の欠乏により、成長遅延、骨密度低下、皮膚炎、免疫力低下、味覚異常、夜盲症、生殖機能不全が起こる。また、加齢・ダイエット・医薬品服用によって会えん欠乏が起こっているという。亜鉛シグナルネットワークを明らかにした研究成果を紹介。NHKのためしてガッテンにも出演して亜鉛の重要性を紹介されたという。亜鉛トランスポーターファミリーには多くの分子がある。例えば、ZIP14は、骨形成、成長ホルモンの作用、糖新生に関わっている。ZIP13は、成長、骨形成、歯形成などに関与するという。ZIP10は、免疫組織に発現が高く、B細胞の発生の初期段階で発現し、その初期発生に必須であるという。これのconditional KOを作成すると抗体産生が激減したという。サイトカインの刺激によってZIP10の発現上昇と共に、亜鉛濃度の上昇も認められるという。ヒトリンパ腫におけるZIP10の亜鉛シグナルが重要であることも明らかになっている。亜鉛シグナルには特異性があるというポイントが面白い。

 最後に「運を運びたければ足を運べ」を紹介していただいた。深田先生に感謝。

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無事、研究会が終わった。お疲れさまでした。また、熊本まで来られた先生方、ありがとうございました。会長の首藤先生の気持ちが入った素晴らしいface to faceの会であった。また、石塚先生の尽力も大きかった。二人だけでなく、初めて、会の運営に関わった多くの学生達にとっても大変良い経験になっただろう。私にとっても楽しい出会いがあり、充実していました。昨夜のメインイベントも午前4時まであったというーーー。若手中堅の会ならではである。

 

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