2012年6 月26日 (火)
毛細血管拡張性運動失調症に朗報!?毛細血管拡張性運動失調症に朗報!?
Nature Med. 2012 5月号からの論文をChosa君が紹介。毛細血管拡張性運動失調症(AT)という遺伝性疾患がある。ATでは、ATM遺伝子の変異により神経細胞死が観察されるがそのメカニズムはわかっていなかった。HDAC (histon deacetylase) 4のノックアウトマウスとATMのノックアウトマウスで小脳において同様の表現型(プルキンエ細胞の変性や減少)を示すことが分かっていた。今回、明らかになったメカニズムは以下の通りである。ATMは通常、PP2A(脱リン酸化酵素)をリン酸化することによりPP2Aの活性を抑制しているが、ATMに変異があると、PP2Aが活性化体として、細胞質に局在しているリン酸化HDAC4を脱リン酸化する。脱リン酸化されたHDAC4は核内に移行し、ヒストンを脱アセチル化し、神経細胞促進因子の転写因子(MEF2A, CREB)の発現を抑制し、結果的に神経細胞死が起こってくるという。HDAC4ノックアウトマウスの結果と矛盾するが、細胞質局在HDAC4も細胞生存に必要であるということを示唆しているという。創薬という観点からはHDAC4阻害薬が期待できるという。この論文でもATMノックアウトマウスの神経機能障害がHDAC阻害薬で改善されている。核内のHDACを阻害できればより理想的なのだろう.ATは患者数10-15万人に1人であり、初期症状として運動機能低下が出現し、約50%が6歳までに顕著になっているという。現在、既に、市場に出ているものだけでなく、数多くのHDAC阻害薬が抗ガン薬として臨床試験が盛んに行われている。これらのHDAC阻害薬をATへの適応拡大という観点で、この論文の知見が朗報になればいいかな。