2016年2 月14日 (日)
p53とアルポートp53とアルポート
遺伝性疾患は単一及び複数の遺伝子変異により発生する疾患の総称であり, 多くは小児期より重篤な病態が生じることから治療法の開発が強く求められている. 直接的な根本治療法として原因遺伝子に対する遺伝子治療が長年試みられてきたが,その多くは未だ臨床的な有用性を示すには至っていない. その中で, 近年のiPS細胞の確立により見出された患者由来細胞の遺伝子修復, 組織再発生, そして自家移植という治療過程は遺伝性疾患治療にとって大きな光明となるものの, 技術確立までの期間, 予想される莫大な治療費等の問題が残っている. 遺伝性疾患の多くは進行性であり, 生後まもなくは症状が現れないのに対し, 成長や生育環境への暴露によって次第に病態が出現する. 申請者はこの点に着目し, 原因遺伝子に対するアプローチのみではなく, 病態進行を開始させるステップを解明し, それを標的とすることで遺伝性疾患の病態進行を抑制することを目的とし研究を行ってきた.その結果, 進行性の遺伝性腎疾患であるAlport症候群(Alport Syndrome: AS)において、癌抑制遺伝子として知られるp53が腎病態悪化を食い止める重要な機能を担っていることを発見した.すなわち、p53が腎臓において重要な細胞であるpodocyteの形態維持を担っており, AS病態進行を抑制するキータンパク質であることが明らかになった. また、p53タンパク質発現はAS病態進行時において有意に低下していることも示され, p53の機能回復がASの新規治療戦略になり得ることも示唆された.
本研究成果は、腎臓研究のトップジャーナルである国際誌Journal of American Society Nephrologyの1月号に掲載され、表紙にも採用された。