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2011年6 月15日 (水)

気道上皮細胞の形つくり

気道上皮細胞の形つくり

Cell Stem Cell 6月号から。Jyurianこと、Chizurunのプレゼン。

 

2009年の臨床系論文において、COPDあるいは(及び)喫煙者の気道上皮細胞のNotchシグナル系が低下し、粘液細胞等への分化誘導が示唆されていた。私が20代後半からチャレンジしたプロジェクトは、ウサギなどの気管から基底細胞を単離する方法を確立し、様々な条件で培養することにより、粘液産生細胞や繊毛細胞に分化できないかという研究であった。顕微鏡を覗きながら描いていた夢は、粘液細胞への分化を抑制し、繊毛細胞への分化を促進することができれば、粘液過剰で悩む呼吸器疾患患者を救う、効果的な去痰薬ができるのではというものであった。ウサギの気管から基底細胞は沢山取れたが、細胞の継代培養ができず、繊毛細胞は単離後、早い段階で死滅していくことがわかり、ウサギやその他の動物を使うのは断念し、最終的には、基底細胞の継代が可能であったハムスターを使用した。ハムスター気道上皮細胞を用いて、コラーゲンゲル上で培養することにより、粘液細胞へと分化が誘導され、プラスチックプレート上で培養すると漿液細胞用の性質を持つ基底細胞として維持ができた。分化誘導された粘液細胞を用いて、薬理学的な研究をし、いくつの論文を発表することができた。UCSFに留学したのも、気道細胞の分化に興味を持ち、分子生物学の技術を駆使していたCarol Basbaumのラボがあったからである。帰国後に、ハムスターの分化誘導系を用いて、転写因子MEFをクローニングし、現存するプロジェクトへ展開した経緯がある。

 

そういった経緯から、今回の論文は、大変興味あった。基底細胞から一旦、初期幹細胞を経て、Notchシグナルの強度に応じて各細胞へと分化していくことを明らかにしている。Notchシグナルが軽度であると繊毛細胞、高いとクララ細胞の自己増殖、無いと杯細胞(粘液細胞)へと分化誘導され、クララ細胞は状況により繊毛細胞あるいは杯細胞にも分化していくという。もうひとつの仮説として、すでに初期肝細胞レベルでそれぞれの細胞への分化運命が決定されているのではということも考えている。慢性炎症病態において、杯細胞を減らすための戦略に応用できないだろうか。

 

また、アルツハイマー治療薬としてのセクレターゼ阻害薬の副作用として、呼吸系への影響を考慮する必要があるのではと思う。特に喫煙するアルツハイマー患者に対して注意して観察したらどうだろうか。

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