Cell Metabolism 1月号から。ショータ君のプレゼン。神経変性疾患における神経細胞死とミトコンドリアの関連についてはこれまで多くの報告がなされてきた。そのなかでもストレス耐性とミトコンドリアについては、Sirt3の関与が注目されてきており、Sirt3の過剰発現がALSや難聴に対して保護的に働くことが報告されている。この論文では、Sirt3の欠損により、ハンチントン病モデルマウスの病態を悪化させること、適度な神経興奮性のストレスによりグルタミン酸受容体を介してSirt3発現量の増加が見られること、運動によりSirt3発現量が増加すること、Sirt3はミトコンドリア特異的にタンパク質をアセチル化すること、Sirt3の発現誘導は、SOD2の発現増加に伴うROSの減少、およびアポトーシスを促進するcyclophilin Dの発現抑制を誘導し、神経保護作用を示すということを明らかにしている。運動やエネルギー制限によるSirt3の発現誘導は神経変性疾患の予防法になっているよという話。心地よい運動を続けること、そして、腹八分のバランスの取れた食事が、最高の薬ということ。定年まで、がむちゃらに働いて疲れ果て、やっと定年迎えて、年金生活に入ってゆっくりできて嬉しいという人は、神経変性疾患になりやすいのではというメカニズムか。年金生活に入っても、関係なく、適度な刺激を受けつつ人生を謳歌しているは薬要らずのピンピンコロリかな。健康寿命の延長のために、若い頃(関節痛や腰痛が無く、筋肉がある間)から体を動かす習慣をつけておいた方が良いのは言うまでもない。歳とってから急に運動すると、整形外科にお世話になってしまう。震災後、運動量が明らかに減った。将来、周りに迷惑かけないためにも頑張ろう。南阿蘇村の立野地区の土砂災害で、阿蘇頂上の道の崩壊で、今年の遠歩は中止だろうか。。50年以上続いた伝統行事。何とかできないかな。ただ、約60kmの遠歩は適度な運動、適度なストレスとは言えないかな。
2016年5 月20日 (金)
2016年5 月19日 (木)
TGF-βのガン抑制機序
Cellの2月号から。今井君のプレゼン。TGF-βは、ガンに対して、アポトーシス誘導という抑制的な作用と上皮間葉転換(EMT)誘導という促進的な作用の2面性があるという報告がなされてきた。本論文はその分子メカニズムと意義をクリアにした。Smad4が発現する膵がん細胞にTGF-βが作用すると、Smad2/3/4 complexの下流でSnail1の発現を誘導し、EMT(これをlethal EMTと言っている)を促進すると共に、Klf5の発現を抑制し、Klf5とSox4との相互作用がなくなり、Smad2/3の下流であるSox4によるアポトーシスが促進されるという。ゆえに、Smad4が発現していない膵がん細胞にTGF-βが作用すると、Smad2/3のみの下流が動き、Sox4の発現を誘導し、Klf5とSox4がプロモーター上で共同して、がん進行へと導くという。したがって、TGF-βによるEMTの誘導をガン促進的というように捉えるのではなく、Lethal EMTの誘導によりガンのアポトーシス誘導も働き、ガン抑制的に働くという。ガンの転移に関わる通常のEMTとTGF-β誘導のSnailを介したEMT(lethal EMT)は、質的に真逆ということらしい。
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2016年5 月18日 (水)
ため息が出るメカニズム
Nature 2月号から。ジョンのプレゼン。ヒトは1時間に数回、無意識にため息をしているという古い論文がある。5分に1回という話もあるという。また、ため息の生理学的な意義としては、肺胞でのガス交換、肺胞の機能維持に重要であるということも古くから報告されている。意識的または、感情による呼吸の調節は、大脳皮質が呼吸中枢へと働きかけることにより起こる。中枢性の化学受容体(CO2/H+を感知する)がRTN/pFRG (The retrotrapezoid nucleus/parafacial respiratory group)という延髄の特定の部分に存在しており、自発呼吸において重要であることは知られていた。延髄におけるプレベッツィガー複合体も吸気において重要であり呼吸のリズムを発生させており、RTN/pFRGと機能的・解剖学的な関連があるということも知られていた。この論文では、その二つの部位を化学的に連絡している分子を同定している。ひとつはNeuromedin B、もうひとつはGastrin-releasing peptideであるという。この両方が関与しており、それぞれの受容体に対するアンタゴニストを処置すると低酸素誘発のため息をほぼ完全に抑制できたという。ため息が出るような心因性の刺激があるとNMB、GRPニューロンが刺激されるのであろう。熊薬の歴史でもある咳の薬理学的研究から、呼吸中枢の研究の歴史を知っているだけに興味深い話であった。
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2016年5 月17日 (火)
膵管腺がんの抗ガン薬耐性に対して
Nature Med. 3月号から。Takadaくんのプレゼン。膵管腺がん。再発率70%、5年生存率が約5%と低いという。膵管腺がんには3つのサブタイプがある(上皮細胞由来、外分泌腺細胞由来、間葉細胞由来)という。膵管腺がんにはパクリタキセルなどの抗がん薬が効かないという。この論文では、その薬物耐性のメカニズムをヒト膵管腺がんモデルマウスを作成し、評価した。外分泌腺細胞由来のがん細胞においてのみCYP3A5の顕著な発現増加が認められ、そのメカニズムにHNF4Aが関与していること、全ての膵管腺がんにおける通常のCYP3A5の発現にはNR1/2が発現制御に関与していることが明らかにされた。CYP3A5を多く発現する多種多様ながんに対する薬剤耐性に対して、CYP3A5、HNF4A、NR1/2を抑制する治療薬が有効であるという。この論文のひとつの重要な成果は、3つのサブタイプの膵管がん細胞の判別として、HNF1A、KRT81の発現パターンが有用であることも明らかにしたことかも。
昨夜、関東地区で震度5弱の地震があった。どこで、いつ起こるかわかるかわからない。まず、命を守ること(寝室やドア周辺の家具の位置)、震災によるライフラインのダメージがあったとしても3日間は生活できるだけの、水(トイレ用を含む)、食、そして、十分充電されている携帯を用意しておくと良いかと思う。薬が必要なヒトは、おくすり手帳も。
とにかく用心と準備を。
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2016年5 月16日 (月)
サルコペニアとオートファジー
Nature 1月号から。テラモンによる紹介。老化現象の一つとして、筋力低下がある。筋肉量が減っていることもその原因となっている。筋肉細胞の基は、筋衛生細胞(骨格筋幹細胞)であり、老化に伴って、静止状態が維持できずに不可逆的な老化状態になっているという。この論文では、若いマウスと老化マウスからの筋衛生細胞を比較した。その結果、老化に伴い、筋衛生細胞のオートファジー活性の低下に伴い、ミトコンドリアにおけるROSが増加し、エピジェネティックな変化によるp16INK4a(細胞老化因子)の発現が増加すること、この現象がヒト筋衛生細胞においても再現できており、ラパマイシンによるオートファジーの活性化により改善することを明らかにしている。ラパマイシンをマウスに投与し、寿命延長作用があったという報告が2009年にされている。その後も、追試する報告があるらしい。神経変性疾患を抑制する作用も報告もある。今回の論文は、このラパマイシンの老化抑制作用(特にサルコペニア抑制)のメカニズムをクリアに証明したところにその意義がある。ラパマイシンは、イースター島のモアイ像の側の放線菌から発見されてきたという。このメッセージはなんだろうか。副作用がなければ、ラパマイシンにより、健康寿命を延ばすことができそうである。老化してしまった筋衛生細胞もラパマイシンにより復活できることも魅力である。2013年の頃の知見を基にしたラパマイシンと老化のブログがあったので紹介します。これまで、本ブログでも、ラパマイシンは、糖尿病性腎症を抑制したり、ワクチン効果を増強したりする論文も紹介してきた。
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2016年5 月11日 (水)
再開ガイダンスと講義スタート
熊本大学は、授業を再開しました。建物が使用できない部局もある中、幸いにも薬学部は建物にひび割れ等がかなり発生しましたが、建築の専門家の調査によりますと、構造上、教育研究に影響するような大きな問題はありませんでしたので、幸いにも5月9日から震災前と同様な授業等が再開できました。一方、研究機器については、研究室によって被害状況は様々であり、研究室によっては、しばらく全く研究が実施できないところもあります。今後、研究機器については、メーカーによる詳細な機能チェックもあり、被害状況がさらに明確になるにはしばらく時間がかかる予定です。薬学部としては、被害が大きい共通機器や被害が大きい研究室の研究体制の復旧のために、様々な支援を活用していくことを考えています。研究室によっては被害が少ないところもあり、そういったところの情報が先行し、「薬学部は被害がほとんどなく大丈夫だったのですね。」という外部の声に対する補足説明も必要になってきています。熊本大学の部局を越えた助け合いも始まっています。再開ガイダンスを全ての学年を対象に行ないました。始める前に、黙祷を行いました。そして、講義や実習中に地震が来た時の対応、震災ストレスの解消法などについても話をしました。学生達の顔を見て、心からホッとしました。みんなで頑張りすぎないように頑張っていきます。
投稿情報: 18:06 | 個別ページ
2016年5 月 7日 (土)
2016年5 月 3日 (火)
次のステップへ
昨日、月曜日の正午をもって、薬学部体育館が避難所としての役割を終えた。熊本市役所や町内会の方々、ボランティアの御蔭で、元の体育館へと戻った。模擬薬局の折りたたみのベットも大活躍であったが、元の位置に戻った。避難者のリーダーの立場からの避難所の様子がfacebookに紹介されていた(子ども達から感謝の手紙を受け取った写真が掲載されていた。また、熊薬キャンパスの避難者数のピークは約1000人であったのも初めて知った)。最後に避難所になっていた薬学部の紹介をするために熊薬ミュージアムを案内した。地元の、しかも身近な熊薬であるはずが、中々、交流がなかった。この震災がきっかけになり、地域の方々との交流が促進されるであろう。今週末の土曜日の昼から、第1回薬草パーク観察会を予定通り開催することにした。震災から3週間、まだまだ復興には時間がかかり、本観察会を中止あるいは延期するかについて大変悩んだ。薬学部体育館は、昨日まで避難所として地域に解放されていたが、その地域の方々が薬草園やキャンパスを身近に感じることとなり、観察会に是非参加してみたいということもあった。そこで、震災の影響を全く受けていない薬草園の植物達から生きるエネルギーと癒やしを感じてみるのも震災に対するメンタルケアとして意味があると思い開催することに至った。どのくらいの参加者があるかわからないが、一人の参加者でも意味があるかなと思う。今、強い雨が降っている。テントの人たちは大丈夫だろうか。余震も震度2が時々あるが、静まってきているように思える。私は、地震後にひどくなったハウスダストアレルギー(目とくしゃみ)がいつもの薬でもなかなかコントロールできず、片付けのモチベーションが高まらない。先週末には、宮崎から大学の親友が励ましに駆けつけてくれた。大学の頃に頻繁に通っていた銀杏の葉のおばさんの実家を一緒に訪問した。先月、配偶者が亡くなったこと、この震災の避難時に怪我を負ったことなどを聴いた。近所の親戚の御蔭で、元気を維持しようとしていた。最愛の夫が亡くなって間もない中、震災に遭い、夜、家に一人というのが大変寂しいと。。来週から大学が再スタートする。研究室の学生達も一人一人と戻ってきた。
町内会のリーダー達と。おかげさまです。
投稿情報: 12:10 | 個別ページ