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2014年12 月26日 (金)

0.1 msのパルス幅の微弱電流の作用機序

0.1 msのパルス幅の微弱電流の作用機序

PLoS ONEに受理された論文が、今月、公表された。Matsu-shinのドク論の一部である。博士号の権利が確保された。以下は、プレス発表用にまとめた文章の一部です。先月の臨床の論文と共に、重要な位置づけの論文です。

 

【メタボリックシンドローム、肥満2型糖尿病患者に朗報】

臨床実験で有効性が認められている新しい物理的刺激「特定微弱パルス電流」の作用メカニズムを解明

〜科学的根拠を確立した医療機器開発へ〜 

 

  熊本大学大学院薬学教育部遺伝子機能応用学分野博士後期課程 3 年、松山真吾、甲斐広文教授ら、同大医学部代謝内科学分野近藤龍也助教、荒木栄一 教授らと共に開発してきた、日本発医療機器 (今後、薬事申請、上市予定) が発する特定条件の微弱パルス電流の作用メカニズムを、実験モデル生物を用いた解析で証明しました。

  本医療機器は、医薬品開発と同様の基礎研究によって、最適化した微弱パルス電流を採用していることが極めてユニークな特徴であり、この微弱パルス電流(MES)と温熱刺激とを同時に処置することによって、メタボリックシンドロームおよび肥満 2 型糖尿病患者を対象とした臨床試験で有効性が確認されています(EBioMedicine, 2014)。現在、糖尿病治療薬を服用しているが効果が不十分な患者に治療薬と併用しても有用であり、過体重や高齢のために運動療法が困難な状況の患者に対しても、適切な治療が可能となる画期的な医療機器です。本医療機器は、経済産業省医工連携事業化推進事業 (平成 24 年〜平成 26 年度) のプロジェクトとしても委託を受けています。

  本研究では、本医療機器の最大の特徴である微弱パルス電流の生体への作用メカニズムを、実験モデル生物(線虫)を用いた検討により明らかにしました。微弱パルス電流が有する、ストレスに対する保護作用や過剰な脂肪蓄積に対する抑制作用が、 “生体のエネルギーセンサー”と呼ばれる分子 AMPKを活性化することで得られていたことが大きなポイントです。

  本研究では、遺伝学的に優れた実験モデル生物である線虫 (Caenorhabditis elegans) を活用することで、個体レベルで微弱パルス電流の作用およびその作用メカニズムを解明に着手した。

  線虫に対して、微弱パルス電流 (2 V/cm、パルス持続時間 0.1 ミリ秒、55 パルス/ 秒) を、1 日 1 回、1 回あたり 20 分間の処置を行った。

  その結果、微弱パルス電流を処理した線虫では、
  (1) 酸化ストレスや温熱ストレスによる致死的なストレス条件下での生存率の延長

  (2) グルコースによる過剰な脂肪蓄積の抑制

が認められた。

 

  これらの線虫では、ストレスを抑制する遺伝子(SODや HSP等)の著しい発現上昇が観察された。一方で、脂肪合成を制御する遺伝子(SREBP)の発現および核内移行が抑制されていることが観察された。しかしながら “生体のエネルギーセンサー”と呼ばれ、代謝応答やストレス感受性の決定に重要な分子である AMPK およ びその上流分子 LKB1を持たない変異株線虫では、微弱パルス電流による上述の効果は確認されなかった。

  また、微弱パルス電流を処置した哺乳類細胞や線虫において LKB1-AMPK 経路が活性化されているか否か検討を行った結果、本経路の顕著な活性化が観察された。さらに、この経路の活性化は、微弱パルス電流がミトコンドリア活性を一時的かつ僅かに抑制することで細胞内のATP量が減少したことが原因であると考えられた。

 

  以上、本研究結果は、微弱パルス電流が LKB1-AMPK 経路の活性化を介して、個 体へのストレス耐性付与と脂肪蓄積の抑制をもたらしていることを示している。LKB1-AMPK 経路は、糖尿病の経口治療薬メトホルミンに代表されるビグアナイド系薬剤の標的経路であるが、本薬剤は副作用がしばしば問題になっている。その一方で、我々が開発した、微弱パルス電流を応用した新規医療機器は、その安全性および臨床的有効性を基礎研究・臨床研究で示してきた。

  本知見は、微弱パルス電流の作用メカニズムを裏付け、本刺激を応用した新規医療機器の積極的な臨床応用を促すものになる。 

 

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