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2011年4 月26日 (火)

腸内細菌と心血管疾患発症リスク

腸内細菌と心血管疾患発症リスク

Natureの2011年4月号から。重要な報告。

コレステロールやトリグリセリドと心血管疾患発症との関連に関する研究は盛んに行われてきた。この論文は、食事由来のリン脂質の代謝には、腸内細菌が関わり、心血管疾患発症リスクと密接に関係していることを明らかにした。アテローム性動脈硬化症モデルマウスに高リン脂質食を与えると症状が悪化し、その影響は抗生物質処理や無菌環境で飼育すると見られないことから、腸内細菌が関わっているという。3年間で集めた心血管イベントで死亡した患者(1000名以上)由来の血液を分析した結果、Choline, TMAO (trimethylamine N-oxide), Betaineという代謝産物が高濃度に存在し、心血管リスクと高度の相関が認められた。Phosphatidylcholine (PC)がCholineに分解され、CholineがTMAになり、TMAが肝臓でTMAOに代謝され、TMAOが動脈硬化を促進するという流れ。心血管リスクを減らすために、患者に予防的に抗生物質を長期投与し続けることは問題があるだろう。ヤクルトなどの乳酸菌を含む食品を取ると、TMAO, TMA産生抑制が起こるという論文も報告されていることから、TMAOが高いヒトに対しては、腸内細菌叢を意識した食生活を取ることを推奨するのが良いのかもしれない。この論文の大きな意義は、バイオマーカーとしてTMAOに注目し、血液中濃度が高くなってきている人々に食事注意報を流すという、心血管疾患に対する新たな予防法を提起できたことであろう。TMAOに変換する酵素を阻害する薬も考えられるが、その結果としてamineが増え、体臭が魚臭くなるのではという懸念もある。

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